とうほくNPOフォーラムin南相馬2020《基調講演》岡本全勝 氏

開催報告

Section 0 《基調講演》岡本全勝 氏 復興のプロセスから見た地域の未来


※オープニングセッションは、講演とコーディネーターによる質疑応答の2部構成で行いました。

<基調講演 要旨> 岡本 全勝氏 (元復興庁事務次官)

元復興庁事務次官の岡本全勝さんをお招きし、「復興のプロセスから見た地域の未来」をテーマにお話いただきました。

  • 講演の話題

①大震災でのNPOの活躍の振り返り

②大震災での非営利活動の認知度が上がったこと、世間での評価が上がったこと

③今後、NPOに期待すること、欠けている点、お願いしたい分野

  • NPO等による支援活動の例

復興庁の職員と一緒にまとめたNPOによる東日本大震災への支援活動の例があります。活動分野として「まちづくり」「なりわいと雇用」「生活支援」「団体支援」に分けました。

・見守り活動:仮設住宅で孤立、孤独死が生じないように。

・避難者への仲介:原発被災地で遠くへ逃げた人たちをはじめ住民への情報提供。

・心のケア:健康管理の特殊な分野として。

・子育て支援:仮設住宅や避難所における遊び場所と勉強場所などの子供の居場所づくり。

・障害者の支援:町から離れた高台にある仮設住宅への移動、病院や買い物支援等。

市町村役場あるいは復興庁は、他に優先的なことが沢山あり手が回らない、気づいていない、気づいても人がいない、それに経験・技術が無かったものにNPOが対応してくれました。例えば、仮設住宅の見回りでは、市町村役場と保健師さんと一緒にするのが一番ですが、そこまで手が回らないため、NPOにお願いしました。

  • ボランティアとNPOの違い

阪神淡路大震災の経験から、孤立や孤独死も出るので見回りをしますという申し出を多くの人からいただきました。一方、市町村役場では、「みず知らずの人が毎日こられたらたまらない、みんないい人とは限らない」という理由から住民が望んでいないと言われました。もう一つの理由として、個人情報を簡単に開示するわけにいかないということが挙げられました。

そこに、NPOを入れるという知恵が出ました。しっかりとしたNPOを選び、守秘義務をかけて個人情報を提供し、決まった回数の見守りを行う委託契約を市役所と結びました。NPOは、仮設住宅団地の情報を持ちつつ、地元で雇用した支援員に回ってもらうことができました。

ここで、個人ボランティアと組織NPOの違いが明確になりました。行政から委託する場合、金銭を経理することのできるしっかりとした組織でないといけないため、個人ボランティアとは全く違う存在として扱われました。

  • 地域の意見集約と中間団体

「まちづくり」のコミュニティとして町内会を作ろうという時にも、NPOの助けが必要でした。特に中高年の男性の参加促進や、高台での新しいまちの計画づくりの意見集約に協力をいただきました。その他に、就労支援や起業支援、「団体支援」いわゆる中間支援の役割も担っていただきました。役所が直接多数の団体と連絡をとるのは難しいため、中間団体が必要でした。

資金獲得が非営利活動団体の問題のひとつとなっていますが、安定的な資金を得るためにも、東日本大震災では、復興庁が資金提供をホームページで情報提供をしていました。そうではない時に、中間団体による情報提供が必要です。日本赤十字とNHKへの募金は、主に被災者の生活を支援するのであって、活動支援ではありません。NPOの活動の資金を政府・行政が出すためには、一定の基準で選ばなければなりません。

岡本全勝 氏
  • 大震災でのNPOの活躍と認知

大震災でNPOが活躍した場面は、以下のとおり多くありました。

・発災直後:被災者の生活支援、避難所の運営、煮炊きの支援、各種相談事業、避難所での健康・心の相談、被災地での片付け(がれき片付け、物品整理)、など。

・復興過程:新しい街の計画策定支援、コミュニティ再建支援、産業就労支援、生活支援、各種制度(情報提供)、子育て支援、など。

また、非営利活動団体の認知も高まりました。昨今、子どもの貧困問題について、内閣府が真っ先に、子ども食堂を展開するNPOに頼っています。社会で発生しているが、行政が触れない問題を、NPOの人たちが掘り起こし、マスコミに取り上げられることから、行政からは厄介だと思うこともあります。東日本大震災の発災から10日ぐらいした頃、被災支援本部に呼ばれ、NPOのみなさんと議論を持つ場があり、協力しますというのを申し込まれました。掘り起こすだけではなく、対策案を持ってきてくれました。

市町村役場はその場の対応で精一杯な上、膨大な仕事を処理しなければならない。避難所の運営、悩みを聞く、仮設住宅を見回る、やらなければならないとわかっているが、役場の保健師さんは手が回りません。その時に、NPOの皆さんが志高く、対応してくれる。市町村役場が躊躇し、行くことができないところにも行ってくれる。自分たちで問題を拾い、代案を出して、自分で動かしてくれました。

  • まちのにぎわいの復興に必要な3つの要素

公共インフラ(道路など)と学校と住宅(公営住宅の復旧、個人住宅への支援金など)を復旧しても、まちの賑わいが全く戻らないところがあります。

①人と経験と知恵と技術:孤立防止をどうするか、新しい住宅団地を作った時に町内会をどう作るのか。見守りはNPOができますが、町内会を作るのは、地域住民が自分でやらなければならない。

②働く場所・買い物の場所:それを作るために施設の無料提供や、雇用の場を生み出すためのグループ補助金が支出されました。売り上げが伸びないところへのノウハウ支援には、企業の支援とともにNPOの皆さん方にも協力をお願いしました。

③つながり:今まで一生懸命道路を作り箱物作りましたが、過疎が止まりませんでした。働く場に加えて、つながりの場が必要です。

  • 「公私二元論」から「官共業三元論」へ

公私二元論、役所と企業が相対立するものであったものが、もう一つ助け合いや協同という分野を入れなければいけない。官と共同と企業の三つの分野です。

  • 国家の役割の変化―サービスの提供から安心の保障へ

官共業の三元論だと、公的サービス、市場サービス、非営利部門が同じようなサービスを提供します。企業による介護サービスもあれば、NPOあるいは一般社団によるサービスもあります。ここでは、政府の仕事は、ルール設定と誘導と監視です。このとき、問題は、金儲けにならない、あるいは金儲けはなるけども当分の間は儲からず採算が成り立たないという部分です。非営利部門と行政部門が対応するところですが、役所の感度が鈍い部門もあります。一方、NPOの皆さん方は、いろんな問題を吸い上げてきます。子どもの貧困、子ども食堂を真っ先に気付いて進めたのはNPOの皆さんです。サービス提供だけではなく、問題の拾い上げが行われると、その後は企業と非営利部門の行動が早い。両者の違いは、企業は金儲けだったら絶対出てきます。NPOは、儲からない時に問題を吸い上げて、政府に持ち上げ、代案を出します。国は、ルールを作ってお金を出して欲しいと言われれば、やりやすいと思います。

  • 新しい政策と新しい手法の発展

従来の行政ではインフラ復旧を行ってきました。それではダメだとわかりました。産業支援と被災者の生活支援を、企業とNPOによる支援をお願いし、行政と3主体間で協働するようになりました。災害発生時の緊急対応として、がれき片付け、避難所支援、一つの型ができました。

  • 「大震災でのNPOの活躍と未来」

(1)「すき間」と「つなぎ」

「すき間」:行政や企業が手を出していない分野。

「つなぎ」:中間団体、個別NPOとの意見を集約して、行政や企業と手を繋ぐ分野。中間支援団体の意見集約と、役所とのつなぎはこれからの課題。

(2)行政とどの分野で、どのように手をつなぐか

行政と企業あるいは非営利団体との協働は、かなり理解されてきました。使える事例、使える補助金、委託金の事例を示します。

我々の取り組みは、政府の他の分野に広がりました。地方創生、子供の貧困もスムーズに非営利団体を対象団体にできました。県庁も企業と包括連携協定を結ぶ団体が増えてきます。地域振興課を窓口に、県の各部局と連携を結んだものを一覧表にしています。

NPO側は中間支援窓口を集約しながら、どのように県や市町村にアプローチしていくかを検討して頂きたいです。

(3)役所との競合

政府・行政とNPO、社会起業家との間で、課題の発見や取り組みについて競争の時代に入ったと思います。社会に活動していることをどんどんPRしていただければと思います。

 

岡本全勝氏・鹿野(NPO法人@リアスNPOサポートセンター)質疑応答セッション

 

◯鹿野

一つ目は、NPOの認知というようなお話をいただきました。行政としては、NPOの話しを聞いてみようと思うヒントをお伺いできればと思います。

  • 岡本さん

みんながみんな、感度が高いわけではないですが、市町村役場の企画部や地域おこし、市民活動の窓口は、食いつきのよいところだと思います。

もう一つは、直観的に理解できるように、具体事例を持って行ってください。企画書よりもどう成功したかを一枚の紙にまとめて、写真を3枚つけるような形式ですと受け付けやすいと思います。

次は、人脈です。実例を見せて、うまくできることをアピールしてください。なお、分野としては地域おこしや、取り残された人たちに関する部分はいま受けやすいと思います。

◯鹿野

今おっしゃっていただいた通り、専門性を持ったNPOの場合は、目に見える課題に対する情報収集力は高く、課題当事者の皆さんにサービスを提供することには慣れています。同時に、NPOが地域の課題と捉えているものを、行政がどう捉えているかという双方向のアンテナを持つのが大事であると思います。

また、自分たちの認知力を上げていくためには、地域の役に立っていることについて、声を出すことが大事であると思います。

もう一つお伺いをしたいのが、中間支援の役割です。NPOの競争相手は、企業やソーシャルセクターの団体ですが、その中でNPOの強みを発揮し、隙間を埋める、つなぎをする中間支援の役割が大きくなっていくということでした。この時、エリアを越えたつながりの力への期待感は、いかがでしょうか。

  • 岡本さん

認知をどう上げるかというのは、次の課題であると思います。行政と企業と非営利活動団体の三つと言っていますが、世間の人はまだまだ三つめの非営利団体を同じような大きさでは捉えていない。活動をマスコミに知ってもらうしかないと思います。

2番目の質問については、テーマごとの中間支援団体が必要です。地域のテーマごとの人達と共同で企画書を持って問題をつきつけると、役所側も話が早くなります。

県にしても市町村にしてもキーマンとなる人がいます。そういう人と普段から付き合っていくのが一番です。

◯鹿野

今日は本当にありがとうございました。

 

(記:石田 裕/特定非営利活動法人森の伝言板ゆるる)