《開催報告》とうほくNPOフォーラムin気仙沼2018

開催報告

とうほくNPOフォーラムin気仙沼2018
◆日   時   2018年12月21日(金)
◆会   場   気仙沼市民会館 中ホール他
◆参加者人数   108名 
◆メディア掲載  ●岩手日報 ●河北新報 ●三陸新報 ●毎日新聞

オープニング

登壇者 浅野史郎 さん  元宮城県知事
             神奈川大学特別招聘教授
    萩原なつ子        認定特定非営利活動法人日本NPOセンター代表理事
             立教大学大学院21世紀社会デザイン研究科教授
    鹿野順一     特定非営利活動法人@リアスNPOサポートセンター 代表理事
             特定非営利活動法人いわて連携復興センター 理事

【開催報告】:地域課題を解決するのは誰なのか?

今回初開催となる「とうほくNPOフォーラム」は、主催者であるアットマークリアスNPOサポートセンター代表理事の鹿野による、「『復興』という言葉はまもなく使われなくなるだろう」という開催の経緯の共有からはじまりました。

オープニングプログラムは、元宮城県知事の浅野史郎さんが登壇し、「地域の持続可能性」をテーマに基調講演を行って頂きました。まず、地域おこしは住民が主役となって行われることが本来であり、行政が主役になって進めてしまうことに注意しなくてはならないというお話をされました。住民と立ち位置の近い地域の団体(NPO、商工会、地元金融機関など)も、住民と一緒に主役となれる存在だといえます。その中でも大事なのは「若者・ばか者・よそ者・女性」であり、彼らを排除せずに大事にしてほしいといいます。

続いて、持続可能な地域の目標は「新しいふるさとづくり」であり、そのためにもその地域における「とっておきのもの(Something Special)」探しをすべきだといいます。ターゲットは観光客ではなく、地域住民であり、地域住民が共有できるその地域「とっておきのもの」の発掘が地域おこしにつながっていきます。講演の最後にJames Bryce氏の「地方自治は民主主義の学校である」の言葉を引用し、民主主義は、参加と熟議であるというメッセージが送られました。

後半は、日本NPOセンター代表理事の萩原なつ子も加わり、パネルトークに移りました。

萩原から、東京23区で唯一の消滅自治体といわれた豊島区で、子育て世代の女性の意見をまちづくりに取り入れるために「としまF1会議」を、行政と企業も含めた協働で立ち上げたエピソードの紹介がありました。

それを受けて、浅野さんは、行政が法律や規則などに縛られるのは仕方ないが、今の行政に必要なのは、潜在的需要を掘り起こすために当事者から直接話を聞き、声なき声に耳を傾けるような御用聞きだという意見がありました。そうすることで守りの行政ではなく、攻めの行政となり地域が活性化していくといいます。


分科会A NPOの“価値”

《登壇者》
 小柴徳明 さん  社会福祉法人黒部市社会福祉協議会 経営先着係長
          NPO法人 明日育 理事
 萩原なつ子         認定特定非営利活動法人日本NPOセンター代表理事
          立教大学大学院21世紀社会デザイン研究科 教授
《コーディネーター》
 四倉禎一朗    特定非営利活動法人いしのまきNPOセンター 専務理事

【開催報告】地域におけるNPOの価値を再点検!

黒部市社会福祉協議会の小柴さんは、富山県黒部市社会福祉協議会の立場では住民や団体を繋ぐプラットフォームとして、また、NPO法人明日育の立場では地域の人材育成と参加を促進する役割で、2つの立場から地域づくりに関わっています。

黒部市のみならず、日本の地方自治体の多くが少子高齢化と人口減に直面している今、「担い手を育て、自分もやる」、「無いものはつくる」、そして「みんなでやるしかない」という視点で活動されているそうです。また、「民間組織としてのプライドと強さ」がNPOの価値として挙げられました。民間がやるべきこと、民間だからできることが必ずあるので、そのステージでNPOの力が求められます。また、多くの市民に対し「参加の選択肢をつくる」ことも、NPOの大事な役割だといいます。さらに、リーダーは既に地域にいるという前提で、そのリーダーを盛り立てる人、すなわちフォロワーこそが大切であるというお話がありました。

日本NPOセンターの萩原からは、大学教授・研究者としての視点、元宮城県庁職員・行政としての視点、また中間支援者としての多角的な視点から話がありました。オープニングで紹介された、「としまF1会議」の実施経緯の話では、現在は区の施策にも提言する影響力を持つまでになったことや、「楽しい合意形成」、「関わりやすいゆるやかさ」、「市民が市民を育てる」といったキーワードがちりばめられていました。

お二人のお話から、NPOの価値として重要なのは、市民の自主的な社会参加を促すための場やネットワークを提供する事であると感じました。NPO法施行から20年、今や多くの団体が社会課題解決に取り組んでいますが、「市民を巻き込む」ことは未だ足りていないといえます。「NPOの価値」について問う機会となりました。


分科会B NPOの“担い手”

《登壇者》
 小野寺浩樹 さん  特定非営利活動法人レスパイトハウス・ハンズ
           いちのせき市民活動センター センター長
 豊田善行 さん   特定非営利活動法人中之作プロジェクト 副代表理事
 豊田千晴 さん   特定非営利活動法人中之作プロジェクト 事務局

《コーディネーター》
 横澤京子     特定非営利活動法人@リアスNPOサポートセンター

【開催報告】活動の担い手を多様化する仕掛けとは?

中之作プロジェクトの豊田さんには、団体の新たな担い手の育成と活動への参画の仕組みについてお話しいただきました。豊田さんは、東日本大震災後、福島県いわき市の古民家を取り壊しから守るために買い取り、1,000人以上の全国からのボランティアと一緒に建物の再生をすることから活動が始まります。その後、古民家を「清航館」と名付け、様々なイベントの活動拠点として開いています。時間の経過と共にイベント利用が徐々に落ち着いた頃、新たに打ち出されたのが「部活動」です。「部活動」は、自発的な活動が前提になっており活動費用も部費(参加費)によって安定的になることや、団体の会員(支援者)になる事で参加できる仕組みは、部活を通した支援者や担い手の拡大にも繋がっています。また、部員によって積極的に活動の情報発信が行われ、これまで関わりを持っていなかった住民や興味をもっていなかった住民に情報が届き、新たな支援者が増えるというサイクルにも繋がっています。

いちのせき市民活動センターの小野寺さんには、中間支援団体として行っている「地域コミュニティの支援」から地域の担い手の育成についてお話しいただきました。はじめに「地域が活性化されるとはどういう事なのか」を説明され、活動の担い手について「多様化をするのではなく、手法を多様化することが大切」とのお話がありました。いちのせき市民活動センターでは「志民のための成長戦略」と題し、地域の担い手を育成するコーディネーター養成講座、自治会長サミット、みちのくワークショップなど様々な講座を開催しています。しかしどの講座も初めから上手くいったわけではなかったようです。仕掛けや持続性が大切といっても疲れないこと(運営できる)が大切。地域コミュニティはそこに住み続ける限り続くが、NPOは会社と同じように運営し続けるミッションが達成できたら解散することも良い、事業単位でもマンネリするのではなく、事業の性格(質)に合わせて判断することが重要だとのお話しがありました。

参加者同士のグループワークでは、登壇者も加わり活発な意見交換が行われました。「明日から一歩前に踏み出すためのヒント」について発表し合うことができ、活動に前向きになる気づきやヒントを持ち帰ることができました。


分科会C NPOの“知恵”

《登壇者》
 吉澤武彦 さん   一般社団法人日本カーシェアリング協会 代表理事
 林 正剛 さん   特定非営利活動法人HUB`s 理事長
           (一財)都市農地活用支援センター 客員研究員

《コーディネーター》
 田尻佳史     認定特定非営利活動法人日本NPOセンター 常務理事

【開催報告】《市民知》をカタチに!地域課題を解決することは可能か

解題解決には、様々な資源が必要です。しかし、ないものねだりでなく、誰もが持っている「知恵」を使って、実践知と専門知が合わさった《市民知》について考える機会となりました。

 

日本カーシェアリング協会の吉澤さんは、石巻において、津波で車が流出した人の支援から開始し、現在は交通手段が限られた人などを含めた、コミュニティのためのカーシェアリングの取り組みを行っています。カーシェアリングは単純に車の貸出をするのではなく、住民同士の支え合いの媒体となり、課題解決を行っています。例えば、住民同士のグループで運転のお手伝いをし合ったり、車の利用管理を行ったり、日常の自然な助け合いの中で生きがいや地域における居場所と役割が生み出されています。カーシェアリングの運営は、近隣の専門学校による自動車整備や、自動車用品メーカー等の協力など、地域や企業との連携にも支えられています。

さらに、環境に合わせ変化させ続けることを意識すること、先を読む運営が大事だといいます。ご自身の師匠の言葉で「コマのように動くな、タイヤのように動け」を心にして、ひと処に留まらず、常に景色(状況)を変えて動いていく気持ちを持って活動されています。実際に、東日本大震災以降の被災地でも支援活動を行ってきており、仕組みがない場所であっても提案をしていかれています。

 

滋賀県を中心に全国で活動する林さんは、これまで障がい者福祉の現場や、「農福連携(※)」推進の活動を通した経験や知見をお話いただきました。林さんは、「風が吹けば桶屋が儲かる」というところの、桶屋が儲かるためには何が不足しているか逆算して考えることを活動の中で大事にしているといいます。与えられた仕事であっても、どうすれば広がりを持てるのか、こなすだけの仕事にしない工夫をどうできるか。また、「農福連携」を広げていく過程においても、縦割りで動いているものに横ぐしを刺すためには、直接は関係なさそうでも、異文化交流(例えば、別々の団体による意見交換)を行う機会を作り出すことで、物事を一緒に創り上げているといいます。

 なにより、自分自身が楽しむことが活動の原動力となっている。大変な時もあるが、相手は自身の鏡だと考え、相手を変えるのではなく、自分が楽しむことで相手にも楽しいと感じてもらえるようにと考えているとお話いただきました。

※障害者等の農業分野での活躍を通じて、自信や生きがいを創出し、社会参画を促す取組。「農業・農村における課題」と「福祉(障害者等)における課題」、双方の課題解決を目指す取り組み。


分科会D NPOの地域でのつながり

《登壇者》
 成宮崇史      認定特定非営利活動法人底上げ 理事
           気仙沼まち大学運営協議会 チーフコーディネーター
 菊池 亮 さん   社会福祉法人釜石市社会福祉協議会 地域福祉課長

《コーディネーター》
 三浦まり江    特定非営利活動法人陸前高田市まちづくり協働センター 理事長

【開催報告】つながりを活かした課題解決のあり方とは?

東日本大震災という大きな災害からの復旧、復興の中で得た多くの≪つながり≫。分科会Dでは「顔見知り程度」の関係から次のステップへ上がるためのヒントを考える時間になりました。

気仙沼で活動するNPO法人底上げの成宮から、ボランティアとして気仙沼で出会った仲間と共に地域につながりがない中でどのように活動を展開していったのかを事例としてお話いたしました。底上げは、社会の変化に対応できる人材育成が必要だという課題感から、高校生を主とした若者の主体的なアウトプットの機会を提供してきました。様々なプロジェクトを進める中で、ビジョンや課題感を積極的に発信することで他団体との連携を作ってきたそうです。その最たる事例がNHKの特番です。市役所や教育委員会、他のNPO等と共に取り組んだ2か月間のプロジェクトでは、関わる人たちが同じ体験をし、成果を共有することで「言葉を共通に揃えていく」ことが大事だと実感したと話しておりました。

釜石市社会福祉協議会の菊池さんからは、社会福祉協議会という組織の特徴を交えつつ、東日本大震災の被災者支援においてつながりを機能させるために実施した取り組みの事例をお話いただきました。被災者の暮らしのフェーズが変化すると共に、それに合わせて支援の内容やニーズも変化しました。特に、仮設住宅へ移行する時期には暮らしのニーズが多様化し、社会福祉協議会だけでできることに限界が訪れ、課題解決に向けたNPOなど、他団体との連携・協働が必要になりました。そこで、情報とニーズを共有する場を作り、ビジョンやミッションを再確認しながら自団体の活動に活かして課題解決に取り組んだそうです。「何を解決したいのか、目的を明らかにすることでつながりやすくなる」とお話しする菊池さん。組織を越えたつながりを生かすためのヒントを提示していただきました。

参加者から「つながりとは何か?」という問いに対する菊池さんの「つながりは可能性を生み出す。今つながっていなくても繋がる努力をしつづけることが大事。」という言葉が印象的でした。人の暮らしや生き方が変わり、課題・ニーズは多様化しています。今は知り合い程度の関係でもお互いのビジョンや目的を共有しておくことで、私たちが共通の危機意識を持ち対応しようとする時、課題を解決する可能性を広げることができます。つながりを生かした課題解決のあり方とは、社会の変化に対応することかもしれないと感じました。



クロージング

■クロージングプログラムでは、各分科会の概要と、各報告者が受け取ったキーワードが共有されました。

分科会A 「地域におけるNPOの価値を再点検!」

キーワード「市民が市民を作っていく」

登壇者の小柴さん、萩原さんからは様々な事例をご紹介いただきながら、当事者性や対等さを大切にすること、フォロアーの重要性、“仕事”と“志事”の違いなどを語られました。

(報告:特定非営利活動法人みやこラボ 金野侑)

 

分科会B 「活動の担い手を多様化する仕掛けとは?」

キーワード「自己実現」

登壇者の豊田さん、小野寺さんからは、本人の得意なことをする、ともにつくること、楽しい活動をすることがシンプルだけど大切、活動を多様化することなど、人に合わせた仕組みづくりの大切さが語られました。

(報告:特定非営利活動法人ピースジャム/気仙沼まち大学運営協議会 佐藤賢)

 

分科会C 「《市民知》をカタチに!地域課題を解決することは可能か」

キーワード「楽しむ」

登壇者の吉澤さん、林さんからは、いろいろな人を巻き込むために自分から動いていること、そのなかで、自分も相手も楽しむことを大切にしていることや、あきらめないこと、流れを見極めることが語られました。

(報告:一般社団法人気仙沼まちづくり支援センター 塚本卓)

 

分科会D 「つながりを活かした課題解決のあり方とは?」

キーワード「共有」

登壇者の成宮、菊池さんからは、単独では解決できない課題を前に、多種多様な人が集う場を作ることで、お互いの変化を感じることができたこと、つながる中で「ことばをそろえる(共有する)」ことができてきたこと、つながるための努力や意識の重要さが語られました。

(報告:大船渡市民活動センター 木下雄太)

 

■会場内からもコメントをいただきました。同じ話を聞いても、受ける印象が人によって異なることや、また、分科会は違っても、同じようなキーワードが出てきたことに注目がありました。

■最後に、進行役の日本NPOセンター田尻より、市民が市民を作っていくことがNPOの価値となる。本フォーラムのヒントを地元に持ち帰って次へのステップになることを願っていますと締めくくりました。

 

 


参加者アンケートからフォーラム全体への感想(一部)

・100人超の参加者がいたことはフォーラムの開催の趣旨が時節にマッチしていたかと思う。

・多くの団体の方が参加しているので、交流の時間などがあればなお良い。

・他の団体とのグループワークのようなものが欲しい。いろいろな団体と会えるのが楽しみ。

・震災から8年、多くのNPOがいろんな地域でいろんな活動をしてきたが、復興がハード面からソフト面に様変わりしたように、団体のミッションも変わるざるを得ない。NPOの終わり方を含めた新たな再生のやり方を学ぶ機会が必要になってきたかと思います。

・企業や行政も参加していたが、教育機関や福祉機関などもっと色々なセクターと共有できると良い。

・参加型のWSがあったり、さらに分科会を増やしたりとこのフォーラムが継続的に盛り上がっていくよう願う。

・前向きに取り組んでいる方々からエネルギーをいただいたように思う。

・震災直後は、沢山の支援団体が集まる場があったが、年々少なくなってきた。今後も支援団体が集まり、情報交換できる場があればと思う。

・今回は「NPO」に焦点が当たっていたが、次はテーマ別の具体的な取り組みを共有し、実際に協働したいセクターも参加する会になると良い。